企業に求められる責任とは?変わりつつある経営の在り方<後編:コンプライアンス>
- 2020/5/2
- 経済・ビジネス

前回は、CSRと企業倫理、コンプライアンスと道徳意識について見てきました。今回は、CSR活動の根幹をなす道徳意識と共に重要となってくるコンプライアンスに焦点を当てて、違反となるケースとそれを防ぐ取り組みを支えてくれるツールを紹介します。
Contents
1. 何がコンプライアンス違反になるの?
そもそも、どんな行為がコンプライアンス違反となってしまうのでしょうか。「コンプライアンス違反はいけない」と言われても、実際何が違反と捉えられるのかはっきりしない部分もあります。そこで、理解を深めるためにいくつか実例を紹介していきたいと思います。
<事例1 残業・長時間労働>
まずは、コンプライアンス違反の典型例として出てくるのが長時間労働です。日本の企業の中には、いまだに部下が上司よりも先に帰るのはよくないといった、暗黙の掟が残っているところも多くあります。
こうした暗黙の掟が撤廃されている企業ももちろんたくさんありますが、やはり伝統的な企業ではこのような古い体質が原因でサービス残業や長時間労働が行われています。
しかしこれは明白なコンプライアンス違反です。正当な理由のないサービス残業・長時間労働は、労働基準法違反にあたります。
ここで、「正当な理由」の有無についてですが、例えば上司が明らかな指示を出していないにもかかわらず暗黙の了解として部下に残業をさせた場合、たとえそれに賃金が発生するとしても「正当な理由」はないということになります。
なおこの場合、当然に上司が管理者としての責任を果たさなかったと見なされます。
つづいては、少し注意しておきたい事例を紹介します。
<事例2 有給休暇>
有給休暇は労働者としての権利であり、法律上認められています。ということは、有給休暇の取得を拒否することは法律違反となり、法令遵守すなわちコンプライアンス違反となります。
しかしここで注意したいのが、必ずしもコンプライアンス違反となるとは限らない場合があるということです。
有給休暇は権利として保障されていますが、実は法律上、その時々の業務状況によっては管理者が労働者に対して変更を求める事ができることになっているのです。(労働基準法第39条5項)これを有給休暇の時期変更権と言います。
例えば年末の飲食店など、非常に忙しく一人でも欠員が出てしまうと業務上支障が出るような場合、有給休暇の取得を拒否されてしまってもコンプライアンス違反にはなりません。
ここで重要なのが、「変更の強制はできないが、社員に自主的な取り消しをお願いする」ということです。いくら特別な事情があろうとも、一方的に取得申請を拒否することはコンプライアンス違反となります。
また、変更を求める特別な事情というのも、社員の権利を不当に妨げるものであってはいけません。
ただし社員側も、労働者の権利としての有給休暇の取得を主張してばかりいては会社の業務がスムーズに進行せず、良い労使関係を気付くこともできなくなります。ですから、有給休暇については非常にグレーゾーンが多く、コンプライアンスの判断にも注意が必要です。
最後に、実はコンプライアンス違反にあたるというかなり気をつけておきたい事例を見てみましょう。
<事例3 アンケートの利用>
商品開発やサービスの向上のために、事前に集めた個人情報を含む顧客アンケートを使用することがあります。実はこのアンケート情報を同じ会社の他部署でも使用すると、コンプライアンス違反になります。
同じ会社なのだから良いのでは?と思う方も多いとは思いますが、ここで気をつけたいのが目的外利用です。これに回答者が承諾の意思表示をすることではじめて適切にアンケート調査を実施できるのであり、そこで説明したこと以外の目的で使用することは、回答者の承諾がないためコンプライアンス違反になるのです。
よって他部署で同じアンケートを利用する際は、改めて目的を説明し回答者の承諾を得ることが必要になります。
個人情報保護法18条では、個人情報の取得時に利用目的を通知する義務が定められています。同条3号、4項4号より「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合」であれば利用目的を変更した場合でもその通知の必要はありませんが、このようなケースもかなりグレーゾーンと言えるので注意したいところです。
2. コンプライアンス違反を防ぐには?
では、コンプライアンス違反を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。実は最近、コンプライアンス教育をサポートしてくれる便利なツールが増えているのです。
―その1 ビジネスコンプライアンス検定
2005年に開始したビジネスコンプライアンス検定をご存じでしょうか。前回ご紹介したCSR活動を進めていこうという社会的な風潮もあり、検定受検者は年々増加傾向にあります。ビジネスコンプライアンス検定は個人・団体のどちらでも受験可能で、社員全員に研修の一環として受検をさせている企業も存在します。
こちらの検定は初級・上級の2つのレベルがあり、合格・不合格どちらかの結果により自分の現状を主観ではなく客観的に捉えることができるので社員のモチベーションもアップし、かなりの効果が期待できそうです。
なお実施会場は札幌、仙台、東京、横浜、新潟、静岡、名古屋、大阪、広島、福岡の全10都市となっています。資格型検定を使って会社全体のコンプライアンス意識を高めましょう。
<ビジネスコンプライアンス検定に関する詳しい情報はこちらから>
―その2 eラーニングで研修
インターネットを活用してコンプライアンス研修を行うeラーニングというツールも存在します。eラーニングの最大のメリットは、ネット環境さえ整えばいつでもどこでもコンプライアンスを学ぶことができるという点です。
eラーニングを活用すれば会場を用意してセミナーを開講する必要がなく企業側もコストや時間を大幅に削減できます。また社員側も自分のライフスタイルの合わせて隙間時間で学べるので、負担も少ないでしょう。
但しeラーニングは社員ひとりひとりが個別に受講する形となるため、社員の自主性が問われます。また、ただ「動画を見て各自勉強してください」というだけでは知識を吸収することができません。そこで社員の修得状況をテスト形式で把握し管理できるシステムを導入しているものもあります。一問一答や選択問題など、手軽に取り組める形式のテストを行っているシステムも多々ありますので、各企業に適したシステムを見つけることができます。
新型コロナウイルスの影響で検定やセミナーなど会場に集まることができない一方、自宅にいる時間が増えている今こそ、eラーニングを活用して会社全体のコンプライアンス意識の向上に取り組んでみるのも良いかもしれません。
3. まとめ
今回は、どういった場合にコンプライアンス違反とみなされるのか、そして違反を防ぐためにはどうすればよいのかを考えてきました。コンプライアンスの重要性は分かっているけど具体的にどんな取り組みをすればよいのかわからない、以前から研修は実施してきたものの効果が出ているのかわからないといったような悩みや心配がある、あるいはCSR活動をもっともっと戦略的に進めていきたいと考えている経営者の方は、上で紹介しましたような検定やシステムを活用してみてはいかがでしょうか。道徳意識とコンプライアンスをもう一度見つめなおすことで、CSR活動もよりスムーズに進められ、社会からの信頼と成長の後押しを得ることができるでしょう。