ひとつは持っておきたい繊細な磁器「エッグシェル」の世界
- 2018/6/20
- ライフスタイル
日本のモノづくり技術を見ると驚くほど誇らしく感じる瞬間はきっとあるはずです。テーブルウェアの中でも、日本の技術の高さを見つけられることができます。エッグシェルという卵の殻のように薄く、かつ丈夫な白磁器がそのうちのひとつで、世界中からも絶賛されている食器なのです。
本記事では、現在でも手に入りやすい有田焼のエッグシェルから、骨董品とも言えるエッグシェルも合わせて紹介していきます。
もし、会食やお店、美術展で見かけたら、背景を知っておくことで話が弾む可能性も高まります。
Contents
第一印象は和紙?プラスチック?手に持ってはじめて分かる美しい白磁
有田焼のやま平窯で造られているエッグシェルのシリーズをテーブルウェアショップで見ると、あまりの薄さにプラスチックだと思ってしまいます。都内にも数店取り扱いがあったため、実際足を運んでみたら、同行した方も含めて同様に思いました。
特に同行者はエッグシェルという言葉自体はじめて聞いたため、陶器だとは思ってなかったようです。透明感のある白さとザラザラした表面のテクスチャを見た時に、和紙のような印象もいただいたとのこと。
しかし、手に持ってみると感じていた情報は完全に覆され、さらなる驚きが訪れました。
コップやタンブラーの薄さが1ミリ程度だったため、手に持つのも怖いと思えるような印象だったものの、実際に持ってみるとひんやりとした食感と手に馴染む感覚。そして、とても強固かつ頑丈。
さらには、あまりにも軽かったため、再びプラスチックではないかと錯覚しました。
疑問を振り払うかの様に、タンブラー同士を接触させてみたところ、金属がぶつかりあうような高い音が響き渡り、現実に引き戻されました。
これは、白磁だと……。
見ても触っても美しく、ひんやりとした感覚が唇に優しく当たると、これは新しい世界が楽しめると確信しました。実は、唇にあたる触感の違いによって、飲み物の味わいが変わると言われています。例えば、厚みがある場合は濃厚な風味を感じやすく、薄い場合は、シャープに感じやすいです。つまり厚みが1ミリのエッグシェルはシャープな味わいを楽しみたい時におすすめです。お酒であれば、ビールや辛口の日本酒、スッキリした味わいのウィスキーなどが良いでしょう。
エッグシェルの表面は多少のざらつきがあります。しかし、逆にそれは、温かみを感じることができ、心地よい触感が美味しさを引き立たせてくれます。なお、コップの内側は、完全にガラス化されているようで、違った美しさも合わせて感じます。
エッグシェルの歴史を知ることで、さらに好きになる
前項では、現在でも入手しやすい有田焼のエッグシェルについて紹介してきましたが、実はエッグシェル(卵殻手(らんかくで))は、江戸から明治の時代にかけて輸出向けのテーブルウェアとして造られてきました。しかし、世界情勢が悪化したことで、技術の継承が途絶えてしまいます。
その後、いくつかの窯元が再現にチャレンジしたり、新しい形に生み出したりと職人さんの情熱が形になっていったのです。機械がどんなに発達しても、人の手でろくろを回して造るからこそ、誕生したようです。
また、歴史を辿っていくと海外に輸出されるものばかりではなく、天皇献上品として制作された芸術品といえるテーブルウェアもあります。
やま平窯で造られているエッグシェルと江戸時代後期から明治にかけて造られていたものは違うものであり、明治期のものは洗練された絵付けがされており、芸術品そのものです。カラフルできめ細やかな器は、内側から見るとそれが透けて見えるくらい、薄さが際立ちます。
今では、現存する数も少なく、骨董品として高値で取り引きされるくらいです。昔、卵殻手を愛していた方がいたように、今でも収集を趣味としている方もいらっしゃるでしょう。
歴史を知っていくと、エッグシェルの魅力も深まっていきますね。
なお、明治期に造られた卵殻手は今でも骨董品店やオークションなどでも見つけることができ、小さいものでは数千円。芸術レベルが高いものでもカップ&ソーサー1客あたり数万円で取り引きされているものもあります。もちろん、さらに貴重なものも存在するでしょう。
【感動的瞬間】使ってはじめてその凄さがわかるエッグシェル!
エッグシェルシリーズは使ってはじめて凄さがわかります。
1ミリ以下の薄さを実現したにもかかわらず、強度は想像以上に高い。これは、磁器の特性でもあります。1,300℃以上で焼き上げると素材はガラス化します。そのため、硬質磁器と言われるくらい硬い仕上がりになります。そのため、思った以上の強度を有していると思ってください。
ただし、割れないということではなく、扱い方によっては破損します。特に、ロック氷を空のエッグシェルに落とすと衝撃で破損してしまう恐れもあるため、先に飲み物を注いでから氷を入れるようにすると良いです。
エッグシェルの凄さは、強度だけではありません。
薄さが織りなす世界です。絵付けされた卵殻手は内側から観ると表面の絵が透けていることがわかります。それと同様に、注いだ液体の色が透き通って見えるのです。白い素地にぼんやりと色がついたような感覚は、提灯の様に淡く発光しているかのようです。
例えば、ビールを入れれば、黄色く色づき、赤ワインを入れれば赤い色が引き立ちます。ガラスと違って直接その色が映えるわけではありませんので、優しい色に変わります。
お客さまをお招きする際に使用すれば、色の変化を楽しめる驚きをプレゼントすることができますね。料理の味とともに、食器の感動を一緒に味わってください。
やま平窯のエッグシェルラインナップ
やま平窯のエッグシェルのラインナップをまとめます。
ビールをこよなく愛する方やカクテルや割物、ジュースなどに良いのはピルスナーやタンブラーです。タンブラーは、L、M、S、SSの4種類あり、SSサイズは一口ビールくらいのサイズです。少量しか飲めない方やテイスティングにぴったりです。
普通に使う分には、タンブラーLかピルスナーがおすすめです。
ウィスキーや焼酎ロックに映えるのはロックグラスです。一回り小さい「Kiwami(極み)」というサイズもあります。氷が溶けて器とぶつかりあう「カラン」という音もこちらで再現されそうです。
丸みを帯びたコップは3種類「Kaori(香り)」というシリーズです。L、M、Sの3種類あり、普段使いの場合は、Kaori(L)がおすすめです。Mは比較的小さめで、Sはお猪口より少し大きいかといったくらいです。
ぐい呑(お猪口)のラインナップは5種類あり、フォルムも特徴的なものばかりです。筒状のフォルムの大黒、地に近づくほど細くなりカーブが特徴的な曲水、富士山のように台形型の藤、オーソドックスなお猪口型の日月、逆弧を描くスッキリしたフォルムの竹取です。
多くのシーンに使えるような器がたくさん生み出されています。
無地の器では物足りない方向けに、「書」シリーズがおすすめです。書道家の中塚翠涛氏とのコラボレーション企画は、墨一色で描かれた春夏秋冬のイメージが精錬された印象を与えてくれます。
シーンを選ばず使え、プレゼントとしてもセンスの良さが光ります。
まとめ
エッグシェルという有田焼・やま平窯で作り出された白磁を中心に紹介しました。もともとエッグシェルは、江戸から明治時代に海外向けに造られた卵殻手(らんかくで)の技法を現代に蘇らせようとしたもので、当時造られていたものとは違います。
明治期の卵殻手は、絵付けも細かく飾り物や芸術品と言えるようなものも多く、やま平窯のエッグシェルと比べると豪華絢爛という言葉がぴったりです。
エッグシェルの驚くべきポイントは、1ミリ以下の薄さを実現しつつも1,300℃以上で焼き上げ硬質化されているため強度は高いです。ちゃんと器が軽くぶつかった時には、きれいな金属音が鳴り響きます。
さらに卵の殻のように薄いため、注いだ液体の色がぼんやり透けることが特徴です。ビールなら黄色、赤ワインなら赤とその色より柔らかい印象が受けられます。全く知らない人は、それだけで驚くし、話題としても広がりを持ちます。
まずは自分用として、エッグシェルの食器を一つは持ってみませんか。